孔版型紙の事
孔版型紙の事
型紙は ごく薄い和紙三枚を柿渋で接着し
耐水性が付与された紙 ”渋紙” を用います
この渋紙に、衣装絵柄を刀で切り取り(彫ると云います)
孔版に仕上げた「道具」が孔版型紙です。
一般には型紙と云いますが、他の型紙と区別してここでは孔版型紙と云います
孔版型紙から生まれる型染めの着物
水を潤沢に使える日本の風土と、
四季と昼夜の美しくも厳しい気候変化を見つめる豊かな感受性と
緻密にして合理的な精神構造と社会システムと創造豊かな日本文化を築き
精緻にして均質な反物、豊かな色彩材、鋭い切れ味の日本刀を創意工夫して産み出し
時代時代の日本の心と文化の中に必然的に生まれた日本の伝統衣装と思います。
孔版型紙は道具です。
孔版型紙の製作には、道具:孔版型紙が使われる着物の染色技術を知る事が必要です。現代では、実践して体得する機会もありますので利用されると良いと思います。この一連のわざの習得と、先人の偉大な業績を目の当りにみて感動を覚えれば「かたかたちわざ」に潜む、人の無限の可能性に驚かされます。
伝統の技が育む心象
日本風土と文化に内在する「手工業モノ作り」には創造と自立を育成する力があります
行程の事象の「変化に対応する事前の予知能力」育成
段取り「計画と創造的実行能力」の育成
「実践継続の根気と決断力」の育成
幅40㎝X長さ(20~100㎝)ほどの孔版型紙を均質に彫る(作成する)技
この型紙を絵柄の連続に留意して、数十回繰返し用い数100㎝(十数M)の反物に均質に絵付け(糊置き)する技
準備する心・変化に応じる心象
連続する一貫の技の行程と、後戻りできない一連の技の定められた行程の事前の段取りには予知と実践のその時の決断を含む心の鍛錬が求められます
伝統の技を支える練膽の継承とその育成システムは文化に再生産される伝統の事物の要の技
伝統に培われた「段取り」は、人と着物の文化の変遷を心して技の総てを束ねる「技の法」と云えます。
この「法」は横着な心、欲望が生む自分の癖で為す仕草では成り立ちません。
誰もが身に着けること出来て自分の心象と事象の変化を覚知して文化と社会の中で伝承される「正しい技」を道理に持つ「法」であります。
変化の激しい日本の風土と文化と歴史の中に常に新生する時代の感性が「より精緻に無駄なく正確に再現する」職人さんの集団が育んできた精神に培われ、変化に自在に応ずる伝統の技が生む事物となって多様な文化の中に継承され、今日の日本のモノ作りに生きてきています。
明治以降に始まる科学的生産手法は、効率と確率を基礎にする多品種大量生産で、大量生産に限って言えば生産技術の論理がエネルギー効率と生産物と不純物排出の量的確率に基ずく経済性とそれを認める文化が育んで来た方法と云えます。それは今、生活環境の根元を破壊するとともに、伝統の生産技法に内在する事物の存在にかかわりながらモノを創造する、ヒト本来の感性も消滅させていると感じます。また科科学的多品種生産は創造的な多様性の創出では無く、むしろ人の想像性の均質の強化とも云えます。
室町から江戸期の封建制時代に発達した「汎用性と精緻な表現性能」を持続的に発展させた孔版型染めの技には、生産に用いる材料の品質バラツキとは正反対に、完成された製品の表現性の正確な再現性に、段どり技法と管理技術、型染め手工業技術の事象の変化と職人の心象の知覚決断能力が大きくかかわっています。明治以降、伝統の技のその部分は、近代科学生産技術と民主主義時代の人のかかわりに在って、効率と収率で排除したといえます。今その部分を更に「情報化」技術を以て効率化の極致:需要のコントロールを含めて、モノ作りから人を排除していく時代になっていると云えます。つまり「欲求は作られ、効率的に従って与えられる」与えるものが管理する、そのような政策と政治体制の時代に入ったと云えます。一つの擬態でつくられた多様性は管理され、人の自立と創造は退化し、変化に応じるの力を失います。
其の事を知って、心象と事象が面前にある「伝統の技」の活用は、射術と同様、「正しい技」が「正しい結果」に至る「伝統に実証され現代に認知されたかたかたちわざ」を学び身に着ける事は、ヒトとは何かに向き合う心の姿勢を問う入り口になります。これは伝統の技にかかわりません、分野を超えて、技を為す全ての人が向き合う入口と同じです。伝との技にはヒトの無限の可能性を意識させ自立する力を培います。
このHPで取上げる「正しい技」の基になる「射法」がある射術と異なり、「事前のものずくに向かう心の心象を正しく自知して、できる事物を覚知して全体計画を創出、段どりを定める事」は射に法があるのと同じです。技の練度、意識の深度が「正しい技」に向かう心象の正雑、正邪をより明らかにし、素直な気持ちと謙虚な姿勢が実践作業するその瞬間に常に確認・自知され、仕上がる事物に如実に映し出されます。
技の継承を目指して
孔版型紙の新しい用途の想像
着物の文化から空間・壁面装飾文化へ。壁画の創作
現代、産業孔版産業の代表である 写真製版シルクスクリーン製造技術 は日本の型紙を元に生まれた重要な工業生産技術です。新たな着物の染色需要には、名もなき先人の柄などを再生・リデザインして再利用され、コンピュター制御の基に写真製版シルクスクリーン転写技術が対応しています。写真製版シルクスクリーン技術には、伝統の孔版型紙の製造技術には、孔版技術と云う共通の型式概念とデザインの類似性以外に面影はありません。心身の陶冶に支えられる伝統の型紙生産技術は特異なモノとなっては、伝統の技は潰えてしまうのでは無いかと思うに付け新しい用途、新しい表現を求め続けています。
着物は「時・処・状況」に応じて用いられ、日本の各地でその伝統の技を磨き、素晴らしい日本の着物文化を継承されています。このHPは、孔版型紙と着物の染色技術を用いて技を為し、現れる姿・形の心象にある「かたかたちわざ」に本源を究理しながら一方で、その技を用いて新しい分野、新しい姿・形を創造したい希求して、フレスコレリーフパネルの技法と姿を提示します。
道具の孔版型紙を用いる ”絵付け生産作業(手作業)”を着物分野で俯瞰すれば、渋紙、反物、糊、染色材他、素材の生産と調整、型紙彫りと型紙道具化の技、型紙と糊を用た絵柄転写技術、藍染染色等染色技術、夫々分業技を統合する着物のデザインと縫製技術と販売技術を統制する手工業生産システムと云えます。すでにすべての部分が科学的手法の製造技術に代わってきています。型紙の用途は、陶器の絵付け、食材の絵付け、襖等の和紙の文様付け、皮革製品の文様付け、その他特許によれば壁材の絵柄文様などに用いられています。
孔版型紙に係る要素技術の検証
①「孔」の質
②「孔」を通過し転写される通過材「防染糊」の表象性
③孔版型紙を繰返し使用して成る絵柄の構成と集合体の表現性
要素を基に壁面材に展開
①「刀」に代わる型紙の彫込み道具技術の検討:レイザー等
「刀」の切り口を最善とすると、今のところこれに代わるモノは無い。
②通過材の選定:基材との接合性とレリーフ模様のボリューム感の検討
③壁面装飾パネル化性能を付加する事:ユニット化と絵柄の連続性(パネル端部処理)
壁面材の性能:耐候性、耐薬品性、耐磨性、平板性、防火性、防カビ耐水性など等
着物文化における型紙染色技法の特徴は「表現性」に在り
壁面材の表現可能性は「壁画」をその極地として試作する
漆喰が創るフレスコレリーフパネルの壁画を提案し展開を試みます
先人の思いとは別にならぬよう「伝統の型紙を作る技」を正しく身に付ける修練が創造性と自立を育むことを念頭の、今の時代に伝統の型紙が活きる新しい用途、新たな表現や創出を日々思い描くいて創作します。最も基本的な型紙制作技術と「糊に代わって漆喰を用いた」事が、壁面パネルの創案につながり、壁画を試作して課題を明確にします。壁画の構成パネルになれば、新しい空間表現の可能性が思い描けます。一方で、実用としては新たにパネルには建築材の要求性能に応じた品質と製作方式の確立が必要です。一枚の飾り物から抜け出れる否か、模索は続きます。伝統の技が明日につながる技となれば思いは広がります。
身につけるわざ と 職人さんの神業
一枚の渋紙、ー本の刀(カッター)で切り抜かれた型紙は切り絵と異なります。最も単純な「道具」です。
道具なので、着物生産全行程を見据えた約束ごとがあります。
技術書は大変少ないと思います。手工業的生産の職人技は、各職人さんの姿とその職場における口伝に因る伝承といえます。
この技の最大の特徴は使用する環境の自然の変化ですべてが動的な状況で決断と実行と確認をする技である事です。
このHPに載せた射の技は「1分ほどの射行」の間は、道具も環境も変化しません。その上為すべき「法」があります。
型紙で着物に糊付けをする数時間に道具の型紙は縮み変形し、材料の糊は乾き固化し孔版の穴を潰します。
連続する絵柄の品質(正確な連続性の再現性)は作業者の技量にゆだねられます。
作業者の心象、環境と目に顕われる事物の事象は「時々刻々変化し一様」ではありませんし、当然季節、日々の天気など作業環境は変化します。
加えて、型紙を用いて絵柄を布に転写する糊の原素材の品質はバラツキ、防染糊の製造条件は気候で変動し、仕上がりの品質に大きく関与します。
布の上に糊付け作業は「素材と環境の変化を予測する周到な段取り」「作業には感性を澄ました繊細な観察と大胆な決断」が求められます。
精緻にして厳密に意識する技量と、
時々の変化に応じて 常に一定の品質を保つ感性を伴う決断力は、
心身と道具と素材を一体とし動作する正しい技であったかと心に問います。
眼前に顕れた姿から謙虚に自身に問わねばなりません。
神業ともいえる古の人の伝統の事物
「変化する自然」に応ずる「生命の根にやどる無意識の働き」が為す「わざ」
伝統の「かたかたちわざ」があって
意識と無意識のハザマを歩む「技の修得」は自己覚醒を伴うと云えます。
それは、先人が示すところで「生涯技を究める」と云わしめる年月が必要なのでしょう
反対は「正しいプロセス」を無視して「技の鍛錬」を尽くさず
表面的な形に捉われ結果だけ辻褄を合わせる横着な欲が身に付けば
事前の段どりには目が向かず伝統の事物の正確な再現性にはなりえません。
業として伝統の技を継承する方々の鍛錬を見習い、伝統と称して活動するのであれば
日ごろの技の修練に誰もが行いえる技かを常に自身に問うことになります
その姿勢は
現れる事物に心象が映し出され
疑似的な伝統の事物として総が顕われると自戒します。
「法」のある射に該当するのが伝統の物作りでは「事前の段取り:刀の磨き方、型の彫り方・作り方、防染糊の作成、布の張り方など」といえます。
それ故、段どりがいい加減で不安定では、繰返し伝統の事物を生産作業するその瞬間に生じる事象と心象の変化を正しく自覚できません。伝統の技の修練は迷路を彷徨います。段取りの修得には一事が万事、伝統の事物がすべてが集約され要の技になります。それによってはじめて製作中の「正しい技」が織りなす事象が顕れたその瞬間の心象と技量の真実を知覚して作業は進み、その瞬間に顕れた心象の「正雑・正邪」を知ります。おのれの心象を謙虚に問い、次の稽古で素直に実践する事になります。その事が「正しい段取りの道理」を明らかにし、製作時点での技の質、事物の再現性の精度を高め、創造する意欲の発露をうながし、意図した伝統の事物の生成を為し、新たな創作意欲と自立への心を芽生えさせるのが伝統の技といえます。